メトロンズ第6回公演『寝てるやつがいる!』初日公演を観に行きました。配信も見ました。
面白かったしノスタルジックでもあったし、ゆったりした時間が流れているのに先鋭的でもあり、贅沢な作品でした。リアルタイムでそして会場で味わえてよかった。
感想はとめどなく出てくるのだけど、言葉にするのが難しいところもあって、うまく書けるかわからないけど書いてみます。
2024.1.24-28、赤坂RED THEATERにて。初の完売おめでとうございます。
舞台は、真夜中の公園。登場人物はそこに「ランチ会」と称して集まった六人の男性。年齢はおそらく二十代半ばから四十代半ばまで。共通しているのは彼らが皆「眠らない人間」であるということ。眠らなくてもよい、のではなく、眠らない、眠ることができない。
眠らない人間というのは、この舞台上の世界においてもイレギュラーな存在であるらしい。異質であり、隠されるべき特質。普段は「普通のふり」をして生きている六人が、たまたまこの「同類が集まる場」の情報をインターネットで見つけ会することとなったのだ。
「それでは皆さん。退屈な夜の、このもてあました時間に——乾杯!」
ストーリーはシンプルだ。始まりは普通の「ランチ会」。集まった皆がインターネットのオフ会のように、互いの身の上や眠らなくなった経緯を開示していく。しかし話をしながら、とある疑惑が持ち上がる。
「ひょっとしてこの中に『寝てるやつ』がまぎれこんでないか?」
会はすぐさまミステリーの様相を帯びる。「寝てないふりをしてるのは誰だ?」「スパイはどいつだ?」ひょんなことから一旦は全員の疑いが晴れた、はずなのだが、犯人捜しは終わらない。
はたして六人の中に「寝てるやつ」はいるのか、いないのか、いるとしたらそいつはなぜ、眠らないふりなんかして紛れ込んだのか。そんな謎を解き明かすような九十分のストーリーです。
ネタバレいいよ、と言われても、話の核に触れるのはどうだろう、とためらう気持ちがある。でも、二転三転するストーリーの中で「こいつだったのか!」の瞬間に一番の笑いが巻き起こったのが、タイトル回収の妙、そしてある種のライスらしさを感じたな。
ただの悪いやつじゃない。悪いやつにこそドラマがある。悲劇の中に人生の味がある。笑うことで、そして笑われることで救われる魂がある。
ミステリー調のストーリーに思い起こされたのが、2010年の年明けに行われた『田所仁とお正月』というタイトルのイベントだ。今回の脚本家であるライスの田所仁さんがゲームマスターを務めたリアリティショー。裏切者は誰だ?信用できるやつはいるか?手を組めるのは?
……息をのんで舞台の結末を見守ったあの日と、今回のユニットコントは、どこか何かが似ている気がする。ころころ立ち位置を変える軽薄さを見せながら的を射る発言で話を進める池田一真の役回りとか、随一の愚か者でありながら最後の一刺しが強烈な関町知弘とか。
関町さん演じるヤマザキ、キャラクター造形が最高だったなあ。田所仁は常々「関町は死にかけが一番面白い」と発言していたし、そんな彼の姿を描くことにも誰より長けていた。……それなのに、どうだろう!
あんなにも愛嬌がなく、人の神経を逆なでし、理解できないものを否定しつつ、それでも妥協を覚え現実におもねり、いきいきと「生きること」にしがみつく一人の男。とても新鮮で、不思議な感慨だった。関町さんにそんなキャラクターをあてるんだ。
ヤマザキ、嫌なやつだったけど、憎めないよなあとも言いがたかったけど、それでも彼は、あそこに集った人々の誰か一人とだけでも縁を切らさずにやってくことができたなら、いつかひとかどの何かになるんじゃないだろうか。
初日を観終わったあと友人が「田所仁が、ファンタジー寄りでなく、現実的な舞台設定をしたのをまず意外に思った」と言っていて、わたしもそれに同意したのだけれど、よく思い返してみれば『寝てるやつがいる!』は紛うことなくファンタジーだなあ、と感じる。念のためファンタジーの意味を調べてみたら、ちょうど一番に出てきた検索結果がまさにそれだった。
空想小説。現実とは別の世界・時代などの舞台設定や,超自然的存在や生命体などといった登場人物の不可思議さに,物語の魅力を求めたもの。
「寝なくても大丈夫な人間」ってめちゃくちゃファンタジーな存在だ。だけどそんな非現実的な存在を、わたしたちの慣れ親しんだ「公園」、だけどちょっぴり特別な「真夜中の公園」、という舞台に馴染ませたところが、わたしの大好きなライスもそうだった。
もちろん全然違う設定のものも多いけれど、心に強く刻まれているコントは、思い出そうとするとなぜか、セミの声が聞こえたり夏の匂いがしたりする。一人暮らしの部屋のぬるまった温度とか、外の空気の肌寒さまで感じられる気がする。
今回の「寝てるやつがいる!」もそうだった。夜のにおいがした。真夜中の膨張した闇と、ぼわんとあたりを照らす外灯。明け方の白み始める空まで見えた。
後味の感傷が好きだった。オチがつくからいいコント、ではなく、ハッピーエンドでもバッドエンドでもどちらでもなく。物語は続く、と思わせてくれる終わり。続いてくれ、と祈りたくなる二人の景色。
今までいくつも胸の中に大事にしまいこんできたものたちと同じ味がした。でも味わいは違った。もはや「職人」みたいなコントのプロたちが、それだけではなく気心知れた仲間であるという隠し味もふんだんに盛り込んで作った、とびきり贅沢な味わいだった。また何度でも食べたい。
メトロンズは前回の第5回公演から観るようになったばかりの初心者だけれど、わたしには今がちょうどよかったんだろう。観に来てよかったな、と思う。
やっぱりライスが食べたい日もあるけれど、六人、いや七人(作家の中村さん)の作るものをこれからも楽しみにしています。
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